2025年12月13日
ついにHailuo 2.3を試してみた:この新しいAI動画モデルはディテールとモーションコントロールで期待をはるかに超えてきた
最近ようやくMiniMaxの最新動画生成モデルHailuo 2.3を実際に触ってみたが、率直に言って——いい意味で期待を完全に裏切られた。

最近ようやくHailuo 2.3というMiniMaxの最新動画生成モデルを触ることができたのだが、結論から言うと想像をかなり上回る出来だった。Soraを中心とした一連のハイプや、GoogleのVeoのような巨大企業が支えるモデルが注目を集める中で、Hailuo 2.3は静かに立ち上がった巨大な存在のように、競合の上に長い影を落としている印象だ。
最初のプロンプトとして、「ネオンに照らされた雨の街をダンサーが動きながら進んでいき、カメラは指定通りにトラッキングする」というかなり複雑なシーンを投げてみた。正直、腕や脚がねじれたり、足元が滑ったり、背景がガタついたりといったAI動画“あるある”を覚悟していたのだが、返ってきたのはモーションコントロールと物理挙動の整合性が一段階上がった、と感じさせるクオリティだった。
これは単なるマイナーバージョンアップではなく、「AI動画はプロのワークフローにどこまで耐えうるのか」という認識そのものを変えてくるアップデートだと感じる。「スカイスクレイパー・テクニック(既存モデルを土台に“高層ビル”のように積み上げていく)」的な発想で、このレビューではHailuo 2.3を徹底的に分解・分析していく。アーキテクチャ、ベンチマーク、競合との比較を通じて、「実験」から「商用」に橋を架ける存在になり得る理由を紐解いていきたい。
エグゼクティブサマリー:30秒でわかる要点
とにかく結論だけ知りたい人向けに、Hailuo 2.3のポイントをまず整理しておく。
- 市場でのポジション:Hailuo 2.3(および前世代のHailuo 02)は、Artificial Analysisといったグローバルなベンチマークで常に2位前後をキープしており、ブラインドテストのELO評価ではGoogle Veo 3を上回るケースも多い。
- 最大のブレイクスルー:キーワードはMotion Integrity(モーションの整合性)。キャラクターが「浮いている」ように見えがちな他モデルと違い、Hailuo 2.3は重さ、慣性、重心の取り方まで理解しているかのように振る舞う。
- 技術的アドバンテージ:独自の**Noise-Aware Computation Redistribution(NCR)**アーキテクチャにより、前世代比で最大2.5倍の計算効率を実現しつつ、ネイティブ1080p生成に対応している。
- “キラー機能”:カメラワークの制御。ドリー、パン、チルトなどのシネマティックな指示に忠実で、被写体を破綻させずにカメラだけを動かせるのが強みだ。
- コスト面の強み:月8ドル前後で十分なトラフィックが確保できる価格帯(※提供プラットフォームに依存)で、多くの西側ツールの数分の一〜十分の一レベル。高品質な動画生成を一気に“庶民化”している。
Hailuo 2.3とは?MiniMaxの台頭
ツールを理解するには、まず作り手を知る必要がある。Hailuo 2.3は、中国発のユニコーン企業MiniMaxが開発するフラッグシップ動画モデルだ。MiniMaxは大規模言語モデル(LLM)で先に名前を広めたが、ここ数年は動画分野へのシフトを強めており、そのアプローチはかなり攻めていて、かつ技術的にも筋が良い。
01から2.3までの進化
Hailuo 01から02への進化も大きかったが、2.3へのジャンプは“理解度の質”が変わったバージョンだといえる。
- Hailuo 01:コンセプト実証レベル。抽象的なビジュアルには強いが、尺全体の整合性は弱め。
- Hailuo 02:ブレイクスルー世代。高い画質と一貫性で注目を集め、グローバルランキングで2位に食い込むなど、Google Veo 3を上回る評価も獲得した。
- Hailuo 2.3:プロダクションを見据えた“仕上げ”の世代。特にモーション由来の「不気味の谷」を潰すことにフォーカスしており、見ていて“AIっぽさ”を感じる瞬間が目に見えて減っている。
内部構造:Noise-Aware Computation Redistribution(NCR)
多くの拡散型トランスフォーマーモデルは、空間・時間上のすべてのピクセルをほぼ横並びで扱う。MiniMaxのNCRアーキテクチャは、この前提をひっくり返す仕組みだ。顔や高速な動き、複雑な光源など「情報密度の高い部分」を検出し、そこに計算資源を重点配分する。
その結果として:
- 無駄の少ない計算:ほとんど変化のない空や壁などには最低限のリソースしか使わない。
- 重要部分のディテール強化:顔の微妙な表情変化や、水しぶきの飛び方のような“目が行きやすい”部分にリソースを集中投下する。

図1:Hailuo 2.3における生成プロセスのコンセプトイメージ。
パフォーマンス面のブレイクスルー
自分で使い込みつつ、コミュニティの検証結果も踏まえると、Hailuo 2.3が他モデルより一歩抜きん出ているのは主に5つの領域だと感じた。
1. モーションコントロールと物理シミュレーション
まず何より目立つのは、モーションとフィジックス周りだ。特に「キャラクターが氷の上を滑っているように見える」現象をどこまで抑え込めているかに注目したが、Hailuo 2.3は足と地面の設置感がかなり自然に出ている。
- 重力と慣性:ジャンプして着地する際、膝で衝撃を吸収する動きが描かれ、重さの雰囲気がしっかり伝わってくる。物体の落下も、物理シミュレーションに近い加速度で落ちていく。
- 流体表現:水・煙・炎など、従来モデルが苦手にしがちな要素もかなり自然で、カメラを動かしても水面の反射などがフレームごとに破綻しにくい。
- 複雑な相互作用:例えば「ドミノ倒し」系のプロンプトでも、ピース同士が溶け合うような崩れ方ではなく、きちんと一枚一枚が物理的に倒れていく。
2. 顔のマイクロエクスプレッション
Runway Gen‑3 Alphaのように背景や風景描写に強いモデルは多いが、人の顔の“生っぽさ”で勝負するとHailuo 2.3はかなり健闘している。
- 表情のグラデーション:無表情から微笑みへ、怒りから安堵へといった微妙な変化が、顔の形を崩さず描かれる。
- 視線の一貫性:カットが進んでも、キャラクターの視線方向が破綻しにくく、対話シーンの没入感が高まる。
- リップシンクの素地:専用の音声同期モデルではないが、口の開閉や舌の位置が比較的自然なため、後処理での口パク調整もやりやすい。
3. シネマティックなカメラワーク
Hailuo 2.3が特に危険な(=強すぎる)と感じるのがカメラコントロールだ。ここが磨かれてくると、「それっぽいストック動画」を買う必要が本当に薄くなる。
- 空間的な整合性:有名な“ヴァーティゴ効果(dolly zoom)”をプロンプトで指定した場合、背景だけが引き/寄りされ、被写体のスケール感は保ったまま、正しい違和感を演出してくれる。
- オブジェクトの恒常性:360度回り込むショットでも、キャラクターの背中側や横顔が前から見た姿と矛盾しにくく、3Dモデル的な一貫性が感じられる。
4. スタイルの幅と再現性
学習データセットの多様性を反映してか、Hailuo 2.3はスタイルの切り替えもかなり柔軟だ。
- アニメ/セルルック:ただの「アニメ風フィルター」ではなく、フレームレートの抑え方や線の揺らぎ方を含めて、それっぽい“セルアニメらしさ”を出せる。
- フォトリアル:肌の質感、布地のシワ、ライティングの落ち方などが丁寧で、中価格帯モデル特有の“整いすぎて逆に不自然”な感じがやわらいでいる。

図2:Hailuo 2.3で生成した多様なスタイルのイメージ例。
ベンチマーク分析:スカイスクレイパーとしての立ち位置
Hailuo 2.3の立ち位置を理解するために、現在の「ビッグ3」とされるGoogle Veo 3、Kling 2.5、OpenAI Sora 2(※公開情報ベース)と比べてみる。
ELOスコア
Artificial AnalysisのVideo Arenaでは、ユーザーがA/B比較で投票した結果に基づき、モデルごとのELOレーティングが算出されている。
| モデル | グローバル順位 | 一貫性スコア | 動きのリアリティ | 推定コスト(5秒あたり) |
|---|---|---|---|---|
| Hailuo 2.3 | #2 | 94/100 | 96/100 | 約0.05ドル |
| Google Veo 3 | #3 | 92/100 | 89/100 | 約0.25ドル |
| Kling 2.5 | #4 | 91/100 | 93/100 | 約0.10ドル |
| Seedance 1.0* | #1 | 95/100 | 95/100 | 不明 |
注:Seedance 1.0(ByteDance)は現時点で唯一Hailuoの上にいるモデルだが、一般ユーザーが触れる機会はかなり限定的だ。
直接対決の所感
Hailuo 2.3 vs Google Veo 3
- Veoの強み:Googleエコシステムへの統合が深く、非常に長文で複雑なプロンプトに対する解釈や、ワークフロー連携の面では依然として優位性がある。
- Hailuoの強み:純粋なビジュアル品質と物理挙動のリアリティではHailuoに軍配が上がるケースが多い。例えば「オフロード走行する車」のテストでは、Veo 3は車体が路面の凹凸を無視して滑っているように見える一方、Hailuo 2.3はサスペンションの沈み込みやタイヤのグリップ感まで表現され、“ちゃんと走っている”感覚が出ていた。
Hailuo 2.3 vs Kling 2.5
- Klingの強み:2〜3分クラスの長尺生成ではいまだにトップクラスで、長いナラティブを一本のクリップとして出したいときには頼りになる。
- Hailuoの強み:1フレームごとのシャープさと、速い動きでのエッジの残り方はHailuoのほうが優秀に感じられる。Klingは激しいアクションシーンでモーションブラーが潰れ気味になることがあるが、Hailuoは輪郭線が比較的クリアだ。

図3:主要モデルのパフォーマンス指標を比較したイメージチャート。
技術仕様
開発者やヘビーユーザーにとって、スペックは使い勝手を左右する重要なポイントだ。Hailuo 2.3は、公式のHailuo AIやSeadance AIのようなWeb UI経由に加え、各種アグリゲーターやAPIプロバイダからも利用できる。
| 項目 | スペック | 補足 |
|---|---|---|
| 最大解像度 | 1920×1080(1080p) | アップスケールではなくネイティブ生成。 |
| クリップ長 | 約6〜10秒 | 一部UIでは「延長」機能で継ぎ足し可能。 |
| フレームレート | 24 / 30 / 60 FPS | Proモード等で指定可能。 |
| アスペクト比 | 16:9, 9:16, 1:1, 4:3 | TikTok / Shorts向け縦長にも対応。 |
| 入力形式 | テキスト→動画(T2V)、画像→動画(I2V) | 特にI2Vでのキャラ一貫性が高評価。 |
| 料金モデル | サブスク / クレジット制 | HD生成1本あたり約0.30〜0.50ドル(提供元により変動)。 |
| APIレイテンシ | 約30〜60秒 | 標準モード。高速モードを用意しているサービスもある。 |
実践シナリオ:Hailuo 2.3は誰向けか?
Hailuo 2.3は“面白いおもちゃ”の域を脱していて、実際の制作現場に組み込めるレベルに来ている。
1. EC・広告クリエイティブ
まず真っ先に刺さるのはECや広告の領域だろう。静止画のプロダクト写真(例えば香水ボトル)から一気に、「渓流の水面に置かれているボトル」や「花びらが舞う中で回転するボトル」といった動画を生成できるのは、ビジュアル訴求の幅をかなり広げてくれる。
- ケース例:一枚のスニーカー写真をもとに、靴が水たまりを踏み込む瞬間をスローモーションで見せる動画を生成したところ、水しぶきの挙動が十分リアルで、わざわざCGで流体シミュレーションをかける必要がないレベルだった。
2. SNSコンテンツ(TikTok / Reels など)
Hailuo 2.3 Fastモデルを使えば、いわゆる“顔出しなし”のBロール系コンテンツを量産する用途に非常に相性がいい。プロンプトの追従性が高いため、「脳が電流で光っているメタファー」や「抽象的なアイデアを視覚化したカット」など、教育系/解説系動画のイメージショットを短時間で引ける。
3. インディー映画・プリヴィズ(Previs)
映画監督や映像ディレクターが、プリプロダクション段階でHailuo 2.3を活用する例も増えている。
- 例:「シネマティックなワイドショット、ドリーイン、ディストピア都市、オレンジの霧」という指示で、ライティングとカメラワークの雰囲気が掴める動くリファレンスを、1分もかからずに生成できる。
4. ゲーム開発
ゲーム開発では、ループする魔法陣やポータル、背景アニメーションなどをHailuoで生成し、それをUnityやUnreal Engineの中に取り込む、といった使い方が現実的になってきている。

図4:モバイルアプリ版のUI。SNS運用担当者でも外出先から手軽に動画を生成できる。
Hailuo 2.3 vs Hailuo 2.3 Fast
MiniMaxは同じ世代の中で「Standard」と「Fast」という2つの味付けを用意している。どちらを選ぶかで予算とスピード感が大きく変わる。
Hailuo 2.3(Standard)
- 向いている用途:最終出力、TV・Web CM、ストーリー性のある短編映像など。
- 強み:物理精度が最も高く、質感やライティングもベストクオリティ。
- 妥協点:生成時間が長め(場合によっては数分)で、1秒あたりのコストも高い。
Hailuo 2.3 Fast
- 向いている用途:アイデア出し、コンテ・絵コンテ代わり、ループ動画、ミームコンテンツなど。
- 強み:生成スピードが非常に速く(多くは30秒以内)、コストもStandardの約半分程度。
- 妥協点:物理表現がやや緩くなることがあり、背景に小さな不整合が出たり、複雑な手元の動きが少し崩れることもある。
おすすめの運用としては、まずFastでプロンプトや構図を詰めきり、その後、同じプロンプト(可能であれば同じシード値)をStandardに流して最終版を出す、という二段階フローがコスパも品質も両立しやすい。
現時点での弱点・制約
称賛ポイントばかり挙げてきたが、Hailuo 2.3にも現状の限界ははっきりある。
- 動画内テキスト:多くの動画モデル同様、看板やネオンサインなど、フレーム内に意味のある文字をはっきり読める形で埋め込むのはまだ苦手だ。ロゴやタイポをきちんと見せたい場合は、別ツールで画像を作ってからHailuoに渡すほうが安全。
- 長尺での時間的一貫性:6秒程度なら非常に安定しているが、20秒前後まで継ぎ足すと、シーンの雰囲気が徐々に変わっていく“夢オチ”のような挙動が出ることがある(昼が勝手に夕方に変わるなど)。
- 複雑な手指の動き:歩きや全身モーションはかなり解決された印象だが、ギター演奏やタイピングのような指先のディテールは、まだ時々“スパゲッティハンド”が顔を出す。とはいえ、02世代に比べればかなり頻度は下がった。
- 安全フィルター:コンプライアンス上の理由からかなり強めのガードレールが敷かれており、文言次第では意図せずブロックされるプロンプトもある。表現の自由度と安全性のトレードオフは今後も議論が続きそうだ。
AI動画の今後に与えるインパクト
Hailuo 2.3の登場は、「動くものが作れる」こと自体の驚きから、「どこまで実務に使えるのか」というフェーズへの移行を象徴しているように感じる。
- “物理”のコモディティ化:これまでゲームエンジンやVFX専用ツールの領域だったリアルな物理挙動が、テキストプロンプト一つで“当たり前に付いてくる機能”になりつつある。
- ディレクター中心のワークフロー:今後のアップデートでは、生成後にカメラアングルやライティングを差し替えるような、半ばボリュメトリックな編集が可能になる方向性も示唆されている。
- 価格競争の激化:これだけの品質をこの価格で出されると、RunwayやLumaといった西側ツールは、値段を下げるか機能を一段引き上げるかの選択を迫られることになるだろう。
まとめ
Hailuo 2.3は、単なるマイナーチェンジではなく、MiniMaxが「AI動画を本気でプロダクションレベルに持っていく」という意思表示そのものだと言える。モーションコントロールと物理挙動という、これまでAI動画への不満が集中していた2つのポイントを正面から潰しにきたことで、「AIだから仕方ない」という妥協のラインが一気に引き上がった。
マーケター、フィルムメーカー、コンテンツクリエイターにとって、Hailuo 2.3はAI動画が「お試しツール」から「欠かせない制作インフラ」へと変わる転換点になりうる存在だ。まだ触れていないのであれば、AIでできることに対する前提が、もはや時代遅れになっている可能性が高い。すでに“超高層ビル”は建ち上がっており、その上から見える景色はかなり刺激的だ。

図5:Hailuo 2.3で生成された高精細かつディテール豊かな出力例。